
経済産業省
経済産業省は、日本経済の持続的な発展と国民生活の向上を担う中央省庁です。産業政策やイノベーション推進に加え行政のデジタル化にも注力し、その一環で行政手続オンラインシステムの「Gビズフォーム」を提供しています。Gビズフォームなどの取組を通じて、誰もが使いやすい行政サービスの実現と、行政全体のDXを推進しています。
https://www.meti.go.jp/index.htmlシステム改修なしで、申請者と審査担当職員の負担を軽減。効果検証を重ねながら、継続的にUXを改善
・行政手続は専門性が高くルールも厳格なため、申請者が申請完了までに時間と労力を要していた
・特にサインイン認証に必要なGビズID(デジタル庁所管の法人・個人事業者向けの共通認証基盤)に関する問合せが多く、マニュアルを用意しているもののオンライン手続の初期工程での課題が多い
・オンライン化を促進するにつれ、行政手続の審査担当職員や運用チームへの問合せが増え、対応負荷とコストが年々増加していた
・GビズID未取得者に向け、画面上で取得方法を案内し、初期離脱を防止
・ユーザー調査とPoC(概念検証)で課題箇所を特定し、操作ガイドやエラー補助を画面上に設置し、定量・定性分析を実施
・システム改修が困難な箇所に対して「テックタッチ 」を活用し、操作ガイドやリアルタイム入力エラーメッセージの表示により申請者の自己解決を支援
・GビズIDの取得導線の改善で、離脱率が約20%減少、滞在時間も約2分短縮
・誤操作や迷いやすい箇所に画面上で補足し、審査担当者や経済産業局の心理的・業務的負担を軽減
・システム改修なしで現場主導の運用を実現、段階的なUX改善が可能に
導入前の課題
複雑な制度と多様な申請者が生む“使いにくさ” --問合せ・離脱が多発
経済産業省が提供する「Gビズフォーム」は、全国の法人や団体が経済産業省所管の行政手続等をオンラインで行える共通基盤として、申請・届出および審査・確認を行うプラットフォームです。15府省庁・116自治体と連携し、400を超える手続(2025年8月時点)をカバーしています。

経済産業省 大臣官房 デジタル・トランスフォーメーション室 デジタル化推進マネージャー 金井冬子様(左)、同室 室長補佐 立石竜之介様(右)
一方で、制度や法令ごとに入力項目や申請フローが異なるため、すべてをシステム改修で一律に対応することは困難でした。特に、申請・届出件数が少ない手続や限定的な課題では、開発リソースを割きにくく、柔軟な対応が難しい状況が続いていました。
また、行政手続は専門性が高くルールも厳格であるためマニュアルやFAQでは操作意図が伝わりにくく、入力ミスや途中離脱が頻発。「サインイン認証に必要なGビズIDの登録の仕方がわからない」「画面上のエラーの意味が理解できない」といった初歩的な問合せが、全国の経済産業局の審査担当職員へ集中的に発生していました。行政手続は必ず提出が必要であり、PC操作に不慣れな申請者も多いため、誰にとっても使いやすいUXの実現が、喫緊の課題となっていました。
このような背景から、既存システムを改修することなく、簡易的に画面を使いやすくできる手段が求められていました。候補選定にあたっては、「クラウド・バイ・デフォルト(政府情報システムの構築において、クラウドサービスの利用を第一候補として検討する原則)」方針に沿い、既存システムを改修せず、サービスのつけ外しが簡易に導入できるデジタルアダプションプラットフォーム(DAP)の導入を検討しました。
その中で「テックタッチ」は、IT知識がなくても現場主導で改善できる操作性や、サービスのつけ外しが簡易な柔軟性、個人情報を保持しない設計などが導入のポイントとなりました。
活用方法と効果
GビズID取得導線から着手、PoCと調査で利用者に即した改善を反映
Gビズフォームでは、サインイン認証にデジタル庁が所管する法人・個人事業者向けの共通認証基盤「GビズID」を採用しており、申請・届出の手続利用には、まずGビズIDの取得が必須です。そのため、最初の導入対象として、つまずきが特に多く寄せられていた「GビズID取得」について着目しました。

図1 GビズID取得案内の操作ガイド
PoC(概念実証)と並行して実施した申請者へのユーザー調査や審査担当者へのヒアリングでは、「GビズIDには3つのアカウント種別があるが、どの種別を取得すればいいのかわからない」「入力画面において、入力エラーの原因が不明」といったつまずきが多く見られました。特に、入力画面で数字フィールドに全角文字を入力してしまい、エラー表示から先に進めなくなるといったケースが多く確認されました。こうした課題に対して、リアルタイムでたとえば「半角で入力してください」と表示する操作ガイドを実装。画面上での操作ガイドにより、サインイン時の離脱率は約20%減少、滞在時間も約2分短縮されるなど、明確な改善効果が確認され、全体の離脱率や問合せ数の削減にも波及効果が見られています。

その後も、申請・届出件数が多く、課題が集中する画面や手続を優先して、操作ガイドや入力チェックの表示を段階的に拡大していきました。課題のヒアリングから要件定義、実装、テスト、導入に至る一連の流れを体系化したことにより、2か月程度の短期間で操作ガイドを追加・改善できる体制が実現しました。
「マニュアルでは伝わらなかった内容が、画面上の案内で迷わず進めるようになった」との声が現場から寄せられ、審査担当者や運用チームの心理的負担も軽減されました。「テックタッチ」は、制度や既存システムの制約に柔軟に対応しながら、申請者と審査担当職員双方にとってやさしいUXを設計できる仕組みとして活用されています。

経済産業省 大臣官房 デジタル・トランスフォーメーション室 係長 勝又基樹様(左)、同室デジタル化推進マネージャー 小林崇文様(右)
今後の展望
制度・文化・予算の制約を乗り越える、行政DXの現実解として
Gビズフォームでは現在、申請・届出件数の多い手続から優先して操作ガイドやリアルタイム入力チェック等の設置を進めていますが、400を超える手続すべてを一律に対応することには限界があります。そこで今後は、課題が集中する領域に絞って「ヒアリング → 実装 → 効果検証」の改善サイクルを内製化し、継続的に拡張可能な運用体制の構築を目指しています。
一方で、画面や操作ガイド、既存マニュアルの整合性が取れていない場合「どの情報を信じるべきか」といった混乱が生じる可能性もあるため、今後は入力チェック仕様の一元管理やガバナンス設計の強化にも取り組む必要があります。
そもそも、行政手続は制度やルールの厳格さゆえに柔軟な設計が難しく、システム改修にも制約があるケースが多く存在します。そうした領域において、現場の声を起点に効果検証を行いながら段階的に改善できるこの取組は、他の省庁や地方公共団体にとっても有効なアプローチだと感じています。
また、必ずしも新たなシステム開発を伴わずに、既存環境の中で申請者の使いやすさを高め、審査担当職員の業務負担も軽減できる点は、行政DX全体の推進における現実的かつ持続可能な手段のひとつだと捉えています。
最終的には、国民・事業者・行政職員それぞれの視点に立ち、すべてのステークホルダーの生産性を同時に向上させる「データ駆動型行政」への転換を目指しています。本取組は、その第一歩としての役割を担っており、現場視点と技術的アプローチを接続する実践的な試金石となっています。
今回の取組が、制度と現場をつなぐ行政DXモデルとして、他省庁・地方公共団体の検討の一助となれば幸いです。