SAP ERP 6.0の標準サポート終了が2027年末に迫る中、多くの企業がS/4HANAへの移行を検討しつつも、コスト負担やリソース確保の課題、業務への影響から、すぐに移行に踏み切れないという現実があります。こうした状況において、現行システムを維持しながらコストを抑制できる「第三者保守」が、現実的な選択肢として注目を集めています。
本記事では、SAP第三者保守の概要や導入メリット、移行プロセスの進め方に加え、契約や運用におけるリスクとその対策、さらによくある疑問点への回答まで、導入判断に役立つ情報を体系的に解説します。SAPサポート終了に備えて今何をすべきかを整理したい方は、ぜひ参考にしてください。
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SAPの第三者保守とは

SAPの第三者保守とは、SAP社ではない外部の専門業者が、SAP ERPシステムの保守・運用支援を提供するサービスです。2027年末にSAP ERP 6.0の標準サポートが終了するなか、S/4HANAへの移行に踏み切れない企業にとって、有力な選択肢となりつつあります。日経によると225社のうち、第三者保守への利用を検討する企業が約8割に及ぶほど関心は高い。※1
これほどまでに関心が高い理由として挙げられるのが、第三者保守の最大の特徴でもある、保守コストの大幅な削減と現行システムの長期継続利用が可能になる点です。実際、第三者保守ベンダーの利用で、公式サポートと比べて約半額に抑えられるケースもあり、IT予算の逼迫する企業から高い関心を集めています。加えて、新機能やバージョンアップに縛られず、現行環境を「塩漬け」したまま、安定運用を維持できる点も評価されています。
一方で、公式サポートのような機能拡張は受けられず、保守品質や障害対応スピードにはベンダー選定の慎重さが求められます。S/4HANAへの移行を急がず、既存資産の延命を図る戦略として、第三者保守は「一時的な現実解」として導入されることが多く、自社の方針や将来計画との整合性が重要です。
※1 旧バージョン「塩漬け」はSAP2027年問題の解決策か、第三者保守の実力とリスク
SAP ERPサポート終了における2027年問題の対応方法をご紹介
SAP第三者保守のメリット

SAP第三者保守は、コスト削減や運用の自由度向上を図りたい企業にとって、有効な選択肢の一つです。SAP社の公式サポートに依存せず、既存のERP環境を維持しながら、将来のIT計画を自社のペースで進められる点が魅力とされています。サポート終了を前提とした戦略的な判断としても注目されており、導入企業も増加傾向にあります。ここでは、第三者保守を活用することで得られる具体的なメリットについてお伝えします。
高額な保守費用を大幅に削減できる
SAP第三者保守の最大の魅力は、公式サポートに比べて大幅にコストを抑えられる点にあります。正規保守では、利用頻度の低い機能やアップデート費用も一律に課金されるため、結果的に運用コストが肥大化しやすいという課題がありました。
第三者保守では、必要な範囲に絞った保守サービスを提供するため、費用は一般的に半分以下に抑えられるケースもあります。企業は浮いたコストを新たなIT施策やDX推進などの戦略領域に再配分でき、限られたリソースを有効活用できます。S/4HANAへの移行を急がず、現行システムを安定的に運用しながらコスト最適化を実現できることが、第三者保守が選ばれる本質的な理由となります。
SAP ERP 6.0の継続利用が可能になる
SAP ERP 6.0の標準サポートは2027年で終了しますが、第三者保守を活用すれば、その後も安定的に現行システムを使い続けることが可能です。S/4HANAへの移行は、多大なコストやリソースを必要とするうえ、業務フローの見直しも避けられません。
こうした背景から、移行のタイミングを慎重に見極めたい企業にとって、第三者保守は時間的・戦略的な余裕を確保できる有効な手段となります。システムの安定運用を維持しつつ、自社に最適な時期と方法で将来のIT基盤を検討できる環境を整えることができます。
強制アップデートから解放され、IT戦略が柔軟になる
SAPのメインストリームサポート(正規保守)を利用し続ける企業は、サポート終了に伴う数年おきの強制的なバージョンアップや、次世代製品(S/4HANAなど)への本格移行をベンダーのスケジュールに合わせて進めざるを得ない「ベンダー主導」の状況に置かれがちです。
第三者保守へ切り替えることで、こうした強制アップデートの制約から脱し、「今の使い慣れた業務フローを大きく変えない」という選択が可能になります。安定稼働している既存システムをそのまま維持できるため、現場の混乱や教育コストを抑えつつ、保守コストのみを大幅に削減できます。
最大の利点は、「本格移行までの猶予期間を確実に確保できる」点です。ベンダーが設定した期限に追われることなく、自社の予算やビジネスの優先順位に基づき、次期システムの選定やクラウド化、新技術の導入をじっくりと検討できます。ベンダーの都合に縛られないIT戦略により、真に自社に必要なタイミングで、リスクを抑えたシステム刷新を実現できるようになります。
SAP第三者保守への切り替え方法と具体的なステップ

SAPの公式サポートから第三者保守へ切り替えるには、コストや体制面の検討だけでなく、綿密な準備と段階的な対応が欠かせません。スムーズな移行を実現するには、現状の課題を見極めたうえで、信頼できるパートナーの選定や実行計画の策定が重要です。ここでは、第三者保守導入に向けた具体的な進め方についてお伝えします。
現状分析と課題の特定
第三者保守への切り替えを検討する際は、まず自社のSAP環境を客観的に把握し、現状の課題を明確にすることが出発点となります。SAP ERP 6.0を継続利用したい理由や、現行サポートに対する不満点(保守費用の高さやサポート範囲の制限など)を整理することで、移行の目的が明確になります。
特に重要なのは、システム全体の構造と運用実態の可視化です。アドオンの数やカスタマイズの内容、業務プロセスがSAPにどの程度依存しているかを具体的に洗い出すことで、第三者保守に必要なサポート範囲や契約条件が見えてきます。この分析を怠ると、移行後に保守対象外の領域が発生するリスクもあるため、初期段階での精密な現状把握が成功の鍵となります。
ベンダー選定とサービス内容の確認
第三者保守への切り替えを成功させるには、自社の要件に合ったベンダーを慎重に選定する必要があります。現状分析で明らかになった課題や運用条件を踏まえ、各ベンダーが提供するサービスの中身を詳細に比較検討することが重要です。
具体的には、サポートの範囲や対応スピード、料金体系、技術力、セキュリティ対策の有無、そして過去の導入実績などが選定の判断材料となります。特に、サービスレベルアグリーメント(SLA)の内容を契約前に細かく確認し、障害時の対応基準や責任分担の明確化を図ることが、運用リスクの抑制につながります。
さらに、第三者保守ベンダーの導入が自社の中長期的なIT戦略にどう影響するか、社内関係者とも十分に協議を行いましょう。単なる保守の置き換えではなく、将来のIT基盤を柔軟に進化させるためのパートナーとして、信頼性と安定性を重視した選定が不可欠です。
移行計画の策定と実行
ベンダーの選定が完了した後は、具体的な移行計画の立案とその確実な実行が求められます。まずは、移行全体のスケジュールを明確化し、各フェーズごとの作業内容を整理します。特に、データ移行やシステム設定の具体的な手順、ダウンタイムの発生有無、影響範囲、そして障害発生時の対応方針など、実務レベルでの詳細な計画が欠かせません。
このフェーズでは、第三者保守ベンダーとの密な連携が不可欠です。事前に合意した計画に基づき進捗を適切に管理し、定期的なレビューや調整を繰り返すことで、想定外のトラブルを最小限に抑えることができます。また、移行作業完了後も、保守サービスの品質が期待水準を満たしているかを継続的にモニタリングし、必要に応じて運用内容の見直しや改善提案を行うことが、長期的な安定運用の鍵となります。
単なる技術作業として移行を捉えるのではなく、今後のIT体制全体に関わる変革の一環として、組織横断的な視点で対応することが重要です。
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SAP第三者保守への移行におけるリスクと対策

第三者保守は多くのメリットをもたらす一方で、従来のサポートと異なる点も多く、導入には一定のリスクも伴います。特に、サポート範囲の違いやセキュリティ体制、ベンダーの信頼性といった観点は事前に慎重な検討が必要です。ここでは、第三者保守への切り替え時に注意すべき代表的なリスクとその対策についてお伝えします。
サポート範囲と品質
第三者保守へ切り替える際に最も注意すべき点のひとつが、サポート範囲と品質の違いです。SAP社の正規サポートでは、法改正や制度変更に伴うアップデート、セキュリティパッチの提供などが包括的にカバーされていました。しかし、第三者保守ではこれらを独自のアドオン開発で対応する必要があり、結果としてシステムの構成が複雑化するリスクが生じます。アドオンが過剰に増えるとパフォーマンスの低下や保守性の悪化を招き、長期的な運用コストの上昇につながる可能性もあります。
また、AMO(Application Management Outsourcing)サービスの見直しによって、運用負荷がユーザー企業側に移る点も見逃せません。従来はSAPパートナーがベンダーと直接やり取りしていた部分を、今後は自社が主体となって第三者保守ベンダーへ問い合わせ・調整を行う必要が出てきます。そのため、システム管理部門の負担増や、社内対応フローの再設計が求められるケースも少なくありません。
こうしたリスクを軽減するには、AMOサービスを一体で提供できる第三者保守ベンダーを選定し、アドオン対応や制度改正サポートの範囲を契約時に明確化しておくことが重要です。
セキュリティとコンプライアンス
第三者保守では、セキュリティ体制やデータアクセス権限管理に加え、ライセンス契約や知的財産権の遵守が重要です。SAP ERPは、SAP社が使用許諾を与えたライセンスに基づいて利用されています。そのため、第三者保守ベンダーがシステム検証やアドオン開発などを行う際に、これらの作業が契約上の許諾範囲を超える場合、知的財産権侵害やライセンス違反と見なされる可能性があります。
特に、SAP ERPのソースコードや内部仕様に関わる調査・改変、またはバージョンアップを伴う作業は、契約内容によって制限されていることが多く、無断実施は法的リスクを招く恐れがあります。そのため、第三者保守ベンダーに保守作業を委託する前に、ライセンス契約書を精査し、必要に応じてSAP社や公式パートナー企業と協議することが重要です。
また、データアクセス権限の取り扱いや、保守作業時の情報セキュリティ体制についても事前確認が欠かせません。企業が求めるガバナンス水準を満たすためには、契約上の遵守事項を明確化し、保守ベンダー側の管理体制・責任範囲を文書化しておくことが望まれます。
ベンダーの安定性
第三者保守を導入する際には、コストや技術力だけでなく、契約相手となるベンダーの経営基盤や継続性を見極めることが欠かせません。第三者保守は長期的なサポートを前提とするため、ベンダーの災害時対応の曖昧さや、財務状態の不安定さ、事業撤退の可能性がある場合、自社システムの保守が突如中断するリスクを伴います。その影響は業務停止やデータ保全の問題など、ビジネス全体に波及しかねません。
こうした事態を防ぐためには、ベンダーの事業継続計画(BCP)の有無や運用実績を確認し、万一の際のサポート体制が確立されているかを把握しておくことが重要です。また、財務状況の健全性や市場での評判、顧客企業の継続率などを調査することで、長期的に信頼できるパートナーであるかを判断できます。
SAP ERPサポート終了における2027年問題の対応方法をご紹介
SAP第三者保守についてよくある質問

SAP第三者保守の導入を検討する企業からは、費用感や契約期間、サポート終了後の運用可否などに関する質問が多く寄せられます。これらは、実際の導入判断や長期的なシステム運用方針を左右する重要なポイントです。ここでは、第三者保守に関して特に多く寄せられる質問とその概要についてお伝えします。
第三者保守の費用はどれくらいか?
第三者保守の費用は、SAP社の正規サポートと比較して30%~50%程度の削減が期待できるケースが一般的です。これは、包括的なサービスを標準提供するSAP社に対し、必要な範囲に絞ってカスタマイズ可能な第三者保守の柔軟性によるものです。ただし、この費用削減率はあくまで目安であり、契約内容や選定するベンダー、システムの構成によって大きく異なります。
具体的な費用は、サポート対象となるSAPモジュールの数、ユーザー数、システムの複雑性、対応時間(例:平日のみか、24時間365日対応か)などの要素を基に算出されます。そのため、自社の運用体制や重視するサポートレベルに応じて、柔軟な見積もりを取ることが必要です。導入を検討する際は、まず自社のシステム構成を整理し、複数のベンダーから相見積もりを取得することで、最適なコストバランスを見極めることが重要です。
第三者保守の契約期間は?
第三者保守の契約期間は、一般的に1年ごとの自動更新形式が採用されることが多く、短期的な運用にも柔軟に対応できる点が特徴です。ただし、ベンダーによっては複数年にわたる長期契約にも対応しており、期間を延ばすことで年間費用の割引など、コスト面での優遇を受けられる場合もあります。
契約期間の選定は、自社のIT戦略やSAP S/4HANAへの移行予定に大きく左右されます。例えば、移行時期が未定である場合には、長期契約を締結することで、将来のシステム刷新に備えながらも、現行のSAP ERP 6.0を安定的に使い続けることが可能となります。逆に、移行準備が進行中であれば、1年更新の契約形態が適しているケースもあるでしょう。いずれにしても、契約期間は固定的なものではなく、事業計画やIT方針に合わせて柔軟に調整できる仕組みとなっています。
サポート終了後もSAP ERP 6.0を使い続けられるのか?
SAP ERP 6.0に対するSAP社の公式サポートは、2027年末にメインストリーム保守が終了し、その後は追加料金を支払うことで2030年末まで延長保守を受けることが可能です。ただし、これらはいずれもSAPが設定したサポート期限に依存しており、長期的な視点では運用継続に制限がかかる点は否めません。
このような状況に対し、第三者保守はSAPとは無関係の独立したサービスとして提供されているため、ベンダーがサービスを継続する限り、公式サポート終了後もSAP ERP 6.0をそのまま運用し続けることができます。これにより、強制的なバージョンアップや期限に追われることなく、自社のタイミングでS/4HANAへの移行を検討・実行する余地が生まれます。
あくまで現行システムを引き続き活用しながら、必要な準備や判断を主体的に進めたい企業にとって、第三者保守は有効な選択肢といえるでしょう。SAPの開示する移行ロードマップに左右されず、将来的なシステム戦略を自社の裁量で描ける点が、多くの企業に評価されている理由です。
まとめ:SAP第三者保守への移行を成功させよう

SAP ERP 6.0のサポート終了が迫る中、多くの企業が将来的なS/4HANAへの移行を見据えつつも、現行システムを継続利用したいというニーズを抱えています。そうした状況において、第三者保守は、コストの抑制と柔軟なIT戦略の両立を図る手段として注目されています。公式サポートに依存せず、自社のペースで今後のシステム運用を設計できる点は、業種や事業規模を問わず多くの企業にとって大きな利点となります。
一方で、第三者保守にはベンダーごとのサポート品質の差やライセンス上の注意点、運用負荷の変化など、導入前に検討すべきリスクも存在します。したがって、成功に向けては、現状の課題や要件の明確化、信頼できるパートナーの選定、移行プロセスの丁寧な設計といった段階を着実に踏むことが求められます。
長期的な視点でコストとリスクのバランスを見極めつつ、既存資産を最大限に活かした安定的な運用を実現することこそが、SAP第三者保守を有効に活用するための鍵といえるでしょう。



