SAP ERP 6.0のメインストリームサポートが2027年末に終了することで、多くの企業が基幹システムの移行という重要な判断を迫られています。特に日本では、導入可能なベンダーの数が限られており、移行の長期化や着手の遅れが深刻な課題となりつつあります。準備に必要な期間やコストを正しく把握しないまま対応を後回しにすると、ビジネスへの影響も避けられません。
本記事では、「SAP 2027年問題」の基本的な内容から、主な移行方法や具体的なメリット、移行に向けた準備・計画の進め方までを整理しています。また、移行時によくある疑問への回答もまとめていますので、全体像を把握したい方にとって有益な指針となるはずです。
SAPにおける「2027年問題」とは
基幹業務に長年活用されてきた「SAP ERP 6.0（ECC 6.0）」や「SAP Business Suite」などの製品に対し、SAP社が提供してきた標準保守が2027年末で終了することが、「2027年問題」と呼ばれる背景です。当初は2025年末が期限とされていたものの、対応困難な企業の存在を踏まえ、2年の猶予が設けられました。
このサポート終了により、アップデートやバグ修正、セキュリティパッチなどが一切提供されなくなります。つまり、システムの安全性や安定性を維持できなくなることを意味し、障害や外部攻撃のリスクが現実のものとなります。特に近年では、情報漏洩や不正アクセスなどの被害が深刻化しており、保守切れの環境を放置するのは経営上の重大な判断ミスにつながりかねません。
対象となるのは、EhP6以上のバージョンが適用された「SAP ERP 6.0」です。一方、EhP1～5に関しては、延長措置の対象外であり、従来の期限である2025年末をもってサポートが終了します。仮に、一定の追加費用（延長保守料）を支払えば、最大で2030年末までの継続使用が認められる場合もありますが、それは本質的な解決策ではありません。
サポートの終了は、単なる製品仕様変更ではなく、基幹システムの更新を強く迫る転換点といえます。猶予がある今のうちに、全社的な計画立案と移行の準備を着実に進めていくことが、経営の安定性を保つうえで不可欠です。
SAP ERPサポート終了における2027年問題の対応方法をご紹介
SAP 2027年問題への対応方法
基幹システムの標準サポートが終了することで、既存環境の維持に限界が生じるSAP 2027年問題では、企業側に早急な対応策の検討が求められます。対応の方向性は複数存在しますが、どの選択肢にも中長期的な視点での判断が必要です。ここでは、具体的な対応方法についてご紹介します。
SAP S/4HANAへ移行する
SAP 2027年問題への最も現実的な対応策は、後継システムである「SAP S/4HANA」への移行です。既存の運用知識を引き継ぎつつ、クラウドやハイブリッドなど柔軟な構成を選べる点が大きな特長です。オンプレミス型でも2040年までの保守が保証されており、長期的な運用にも対応できます。
S/4HANAでは、データ処理速度の向上に加え、AIによる業務自動化や分析機能の高度化が進み、業務効率や意思決定の質を大きく改善できます。これにより、単なるシステム更新にとどまらず、企業のDX推進にも直結する投資効果が見込まれます。
一方で、移行には注意点もあります。現行システムがNon-Unicode環境の場合、Unicode化が前提条件となるほか、独自開発されたアドオン機能を多く持つ企業では、移行時の再設計やテストに高度な専門知識が求められます。そのため、単純なバージョンアップではなく、実質的にはリプレイスに近いプロジェクトとして進める必要があります。
また、S/4HANAの各リリースにはサポート期限が設定されており、継続的に最新バージョンへ更新し続ける運用体制を構築することも重要です。こうした計画的な移行とアップデート管理により、安定した業務基盤と最新技術の活用を両立させることが可能となります。
SAP S/4HANAへのデータ移行の方法とは？5つの注意点も解説
SAP Extended Maintenanceを利用する
SAP ERP 6.0を使い続ける選択肢として、延長保守（SAP Extended Maintenance）を契約する方法があります。エンハンストパッケージ（EhP）6～8を適用している場合、標準保守終了後も追加費用を支払うことで、2030年末までサポートを受けることが可能です。
この措置により、即時のシステム移行を避けつつ、社内調整や移行準備の時間を確保できます。移行コストやリソース不足が懸念される企業にとっては、現実的なつなぎ策となり得ます。
ただし、延長保守中も新機能の提供や抜本的な改善は行われず、セキュリティ面や業務継続性に関する制約が残ります。加えて、追加料金によるコスト増も避けられず、長期的な運用には限界があります。今後のさらなる延長も見込めないため、対応を先送りにしすぎない計画が求められます。
他社製品へ乗り換える
SAPに依存せず、他社のERPシステムへ切り替える選択も有効です。現在は、業種や規模に応じて柔軟に導入できる製品が多数存在し、コストや機能面での選択肢も広がっています。
特にクラウド型は、保守不要・自動更新といった利便性が高く、IT人材が限られる企業にも適しています。一方、オンプレ型でも国産の高性能ERPが充実しており、自社の業務に合った製品を選びやすくなっています。
ただし、乗り換えには初期コストやデータ移行の負荷が伴うため、計画的な予算設定と導入スケジュールの策定が不可欠です。長期的な視点での総合判断が求められます。
SAP 2027年問題における「SAP S/4HANA」への移行メリット
SAP ERP 6.0の保守終了を受け、「SAP S/4HANA」への移行は単なる代替手段ではなく、業務の質を向上させる大きな機会となります。最新基盤への移行により、従来の課題を解消しながら業務全体を再設計することも可能です。ここでは、「SAP S/4HANA」がもたらす主なメリットについてご紹介します。
リアルタイムな意思決定を可能に
SAP S/4HANAは、インメモリーデータベース「SAP HANA」によって全データをメモリ上で処理するため、従来型のシステムと比べて格段に高速な処理が可能です。さらに、カラム形式でのデータ格納により圧縮効率が高く、情報の検索や分析が迅速に行えます。
また、トランザクション処理と分析機能が一体化されており、業務データの蓄積と同時にリアルタイムでのレポート出力や可視化が実現できます。これにより、状況の変化に即した柔軟な判断が行える環境が整います。
直感的な操作で業務効率化
SAP S/4HANAには、ユーザーの使いやすさを重視して設計された「SAP Fiori」というインターフェースが採用されています。視覚的にわかりやすく、直感的に操作できる構成となっており、誰でもスムーズに業務に取り組める点が特長です。
業務内容に応じてアプリを使い分けられるため、作業の無駄を減らし、業務全体の流れがスピードアップします。また、Fioriはスマートフォンやタブレットなどの端末や各種ブラウザにも幅広く対応しており、場所を問わず柔軟な業務遂行を支援します。
クラウド移行でコストを削減
クラウド環境への対応が進んでおり、AWSやGoogle Cloudなどの基盤上でも利用できます。これにより、導入のスピードや柔軟なリソース拡張が可能となり、無駄な設備投資を抑えることができます。
また、クラウド型にすることで、サーバー管理や保守にかかる負担が軽減され、TCO（総保有コスト）の最適化にもつながります。自社にとって重視すべき要素に応じて、オンプレミスとの使い分けも可能です。
SAP S/4HANAへのデータ移行の方法とは？5つの注意点も解説
SAP 2027年問題における「SAP S/4HANA」の移行方法
SAP S/4HANAへの移行に際しては、現行環境や目的に応じて複数のアプローチが存在します。それぞれの方式には特有の特徴があり、自社にとって最適な選択肢を見極めることが重要です。ここでは、主な3つの移行手法についてご紹介します。
新規導入（グリーンフィールド）
グリーンフィールドは、SAP S/4HANAをゼロから構築し直す移行方式です。既存のシステム構造にとらわれず、業務プロセスを抜本的に見直せる点が最大の特徴です。
SAPが提供する「ベストプラクティス」を活用すれば、標準化された先進的な業務設計を効率的に取り入れることができます。これにより、非効率なプロセスを整理し、最新機能を最大限に活用した新しい業務基盤を構築できます。
ただし、システムを一から再設計するため、コスト・期間・リソースの負担は相対的に大きくなります。そのため、既存環境に課題が多く、根本的な改革を目指す企業に適した方法といえます。
グリーンフィールドとは？ブラウンフィールドとの違いや注意点を解説
システム刷新（ブラウンフィールド）
ブラウンフィールドは、現行のSAP ERP 6.0環境をベースに、データや設定を引き継ぎながらSAP S/4HANAへ移行する手法です。業務フローやカスタマイズを維持できるため、ユーザーへの影響やコストを抑えやすい点が利点です。
ただし、業務プロセスの抜本的な見直しは行わないため、過去の課題や非効率な構造がそのまま残る可能性があります。最新の分析機能や新UIは活用できるものの、S/4HANAの特長を最大限に引き出すには追加の最適化が必要になる場合もあります。
ブラウンフィールドとは？SAP S/4HANAへの移行方法を徹底解説
選択的データ移行
選択的データ移行は、現行データを選別しながら段階的に移行する方式で、グリーンフィールドとブラウンフィールドの中間に位置付けられます。業務に必要な情報のみを抽出し、先に構築したS/4HANA環境へ計画的に取り込むことで、柔軟かつ効率的な移行が可能です。
不要なデータを除外できるため、ダウンタイムの短縮やアーカイブ活用による負荷軽減にもつながります。SAPやSNPが提供する専用ツールを活用することで、精度とスピードを両立した移行を実現できます。
SAP 2027年問題における「SAP S/4HANA」へ移行する際の注意点
S/4HANAの提供開始から10年が経過した現在も、日本国内では約4割の企業が未移行のままです。移行可能なベンダー数にも限りがある中、2027年のサポート終了に向けて、限られた期間での判断と対応が求められています。ここでは、S/4HANA移行における主な注意点についてお伝えします。
移行の目的と範囲を明確にする
S/4HANAへの移行は、単なるシステム更新ではなく、経営基盤を再構築する重要なプロジェクトです。目的を「サポート期限への対応」に限定してしまうと、方向性を見失い、コストや期間の膨張を招く恐れがあります。
まず、「移行によって何を実現したいのか」を明確にし、業務プロセスの見直しやカスタマイズの整理を進めることが重要です。移行範囲を具体化し、標準機能を最大限活用する方針を定めることで、効率的かつ戦略的な移行が可能になります。
十分な準備期間を確保する
移行プロジェクトが長期化する主な要因は、準備不足と着手の遅れです。特に過去に複雑なカスタマイズを行っている場合、その見直しと整備に多くの時間を要します。
データのクレンジング、操作テスト、社内教育など、移行には多段階の対応が求められるため、少なくとも1年半から3年の確保が現実的です。2027年末のサポート終了を逆算し、余裕を持って計画を立てることが移行成功の鍵となります。
データ移行計画を慎重に立てる
データは業務の根幹を支える資産であり、その扱い方次第で移行プロジェクト全体の成否が決まります。失敗の多くは、計画不足や検証工程の甘さに起因しています。
どの情報を移すのか、不要なデータをどう整理するか、整合性をどう確保するかといった点を事前に明確にし、段階的な移行やツールの選定も含めた具体的な戦略が必要です。慎重な設計こそが、トラブルを防ぎ、安定した移行を実現します。
SAP S/4HANAへのデータ移行の方法とは？5つの注意点も解説
SAP 2027年問題についてのよくある質問
SAP ERP 6.0のサポート終了が迫る中、多くの企業が対応の必要性を感じつつも、具体的な移行計画に踏み出せていないのが実情です。移行時期や費用、対応しない場合のリスクなど、現場から寄せられる疑問も少なくありません。ここでは、SAP 2027年問題に関する代表的な質問とそのポイントをお伝えします。
「2025年問題」と何が違うのか
「2025年の問題」は、老朽化したITシステムを放置することで生じる業務停滞や経済的損失など、広範なリスクを指す社会全体の課題です。一方、「2027年問題」は、SAP ERP 6.0の保守終了に伴い、対象企業が直面する個別かつ具体的なリスクを意味します。
つまり、2027年問題は2025年の崖の一部にあたるものであり、SAPユーザーにとっては極めて現実的かつ差し迫った対応が求められる問題です。
移行にはどれくらいの期間がかかりますか？
移行期間はシステム規模や採用する方式によって異なりますが、一般的には1年半から3年ほどを要します。新規導入では業務プロセスの再設計を伴うため長期化しやすく、既存環境を活かす刷新型では比較的短期間での対応が可能です。
また、選択的データ移行のように必要な範囲だけを段階的に移す方法を取れば、業務への影響を抑えつつ柔軟に進行できます。早期に計画を立て、ベンダー選定を含めた準備期間を確保することが重要です。
移行費用はどのくらいかかりますか？
費用は企業規模やシステム構成、データ量、採用する移行方式によって大きく異なります。一般的には数千万円から数億円に及ぶ場合もあり、特に大規模システムでは外部コンサルタントや追加ライセンス費用が負担となります。
主な内訳は、ソフトウェア費、コンサルティング料、ハードウェア調達費、教育・運用準備費などです。正確な見積もりには現行環境の分析とスコープ定義が欠かせません。費用対効果を意識した計画立案が、成功と無駄のない投資につながります。
移行しない場合、どうなりますか？
2027年以降は標準サポートが終了し、システムの脆弱化や法改正への非対応といった深刻なリスクが発生します。セキュリティ更新が止まることで、サイバー攻撃の標的となる可能性が高まり、システム障害が起きてもSAPからの支援は受けられません。
また、税制や電子帳簿保存法などの制度変更にも対応できず、業務停止やコンプライアンス違反につながる恐れがあります。事業継続の観点からも、早期の移行対応が不可欠です。
SAP ERPサポート終了における2027年問題の対応方法をご紹介
まとめ：SAPの2027年問題に備えて
SAP ERP 6.0のサポート終了まで残された期間は限られており、国内外を問わず多くの企業がS/4HANAへの移行を急がざるを得ない状況にあります。特に日本では、導入を支援できるベンダー数に制約があり、2027年問題への対応が後手に回っている企業も少なくありません。
移行を成功させるためには、まず移行の目的を明確にし、自社の現行システムや業務プロセスを丁寧に棚卸しすることが重要です。そのうえで、事業規模や業務内容に応じて最適な移行方式を選択し、十分な準備期間を確保したうえで計画的にプロジェクトを進める必要があります。
また、SAP S/4HANA移行後の定着支援やユーザー教育も軽視できません。システムがスムーズに活用されなければ、せっかくの移行も十分な成果につながらない可能性があります。S/4HANAは単なる後継製品ではなく、将来のDX基盤ともなる重要なインフラです。そのためSAP S/4HANAへの移行では、直感的な操作支援を実現するデジタルアダプションプラットフォーム（DAP）「テックタッチ」が有効です。マニュアル不要で操作をナビゲートできるため、誤入力や問い合わせを削減し、システム定着をスムーズに進められます。SAP S/4HANA導入後の社内浸透を加速させたい企業は、「テックタッチ」の活用を検討することをおすすめします。
2027年の保守終了を迎える前に、経営と現場の双方が納得できる移行戦略を固め、余裕を持った対応を進めていくことが、事業継続と競争力維持の鍵を握ります。
