2001年度から運用が始まったLGWANとは、自治体間を相互につなげる行政専用のネットワークです。強固なセキュリティ対策が施されており、自治体における手間やコストの削減を実現しています。また、マイナンバーカードを活用した各種証明書のコンビニ交付など、住民サービスの向上にも寄与しています。この記事では、LGWANの概要や仕組み、利用するメリットに加えて、多くの自治体が気になる「LGWAN-ASP」の仕組みや導入時のデメリット、実際の活用事例まで詳しく解説します。LGWANについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
本記事を読み進める前に、そもそも自治体DXとは何か、その推進目的や現状の全体像について「自治体DXとは?推進目的から課題、事例をわかりやすく解説」の記事で整理しておくと、より理解が深まります。
あわせて、現場で直面しやすい主要な課題については「自治体DXとは?5つの課題から推進ポイント・先進事例まで解説」で基礎を固め、具体的な取り組みイメージを持つために「自治体DXの事例10選!先進事例から推進計画まで解説」の記事で先進事例を確認しておきましょう。
12の公共団体 で導入済!
公式HPへの導入
問合せ件数約40%減 FAQ閲覧数約2.3倍
電子申請共通システムへの導入
1人あたりの操作時間を約63%短縮 約85%が必須項目がわかりやすく なったと回答
LGWANとは(総合行政ネットワーク)
LGWAN(総合行政ネットワーク)とは、自治体間を相互につなげる行政専用のネットワークのことです。「Local Government Wide Area Network」の略称で「エルジーワン」と呼ばれます。
以下8つの基本方針に沿って構築されました。
| LGWAN(総合行政ネットワーク)の基本方針 |
| ◾|全ての地方自治体を包含できる行政内のクローズドネットワーク ◾|高度な情報の安全性を確保 ◾|情報通信分野のスタンダードなテクノロジーを採用 ◾|政府共通ネットワークと相互に接続 ◾|全ての地方自治体が負担可能なコストで運用 ◾|各市町村や都道府県のネットワーク規模、情報化の進度や方法の違いを吸収 ◾|地方自治体が持つ既存設備を活かす ◾|電子メールや掲示板、メーリングリストなどの横断的サービスを提供 |
地方自治体間の相互伝達を目的に2001年度から運用が始まったLGWANは、2003年度には全ての市区町村で接続されました。インターネットから分離された行政専用のネットワークで、電子文書の改ざんを防止する「地方公共団体組織認証基盤(LGPKI)」により、高度なセキュリティを確保しています。データセンター自体も物理的に頑丈な作りとなっており、台風や地震などの災害が発生した際にも業務の継続が可能です。また、中央省庁の「政府共通ネットワーク」とも接続でき、政府との通信手段を担う役割も果たしています。
LGWANの接続や仕組みに関して
LGWANは、公衆のネットワークから切り離された閉鎖的な仕組みです。ここからは、接続や仕組みに関する以下のポイントについて詳しく解説します。
LGWANの4つの構成要素
LGWANは以下4つの要素で構成されています。
| 要素 | 概要 |
| LGWAN接続ルーター | 地方自治体に据え付けられている、庁内LANとつなぐための通信機器です。データ転送の速度が速く、安定した利用ができます。 |
| 都道府県ノード | 都道府県に据え付けられた、管内の接続団体やLGWAN-ASPサービス提供者のアクセス回線をつなぐ設備です。100Mbps~1Gbpsの通信ができます。 |
| 東日本・西日本ポイントオブインターフェース(POI) | パソコン同士が通信を行うための規格(ルール)である基本プロトコルの提供や、不正アクセスの監視・検知を行っています。災害対策の観点から、東日本と西日本に分けて設置されています。 |
| 全国ネットワークオペレーションセンター(NOC) | 全体を運営・管理する設備です。地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が設置や管理を担当しています。 |
2019年4月から現在まで、構成・利用されているLGWANは「第4次LGWAN」と呼ばれるものです。構成は以下の3パターンから各自治体が選択するため、都道府県ノードを使用しないケースも存在します。
| 都道府県ノードの利用パターン |
| ◾|都道府県ノードを中継してつなぐ方法 ◾|直接つなぐ方法 ◾|上記双方を併用する方法 |
LGWANは幅広く活用されるとともに、多くの個人情報を取り扱っています。強力なセキュリティ対策が欠かせないため、新たな第5次LGWANの検討も進められています。
三層分離モデルに基づく環境での接続
三層分離とは、データの保管やシステムを構築している領域と、インターネットを活用したサービスなどの領域を分離するモデルのことです。2015年に日本年金機構が不正アクセスを受け、個人情報が外部へ流出した問題を踏まえ、セキュリティ強化を目的に導入されました。
導入当時のオリジナルモデルは「αモデル」と呼ばれ、以下3つで成り立っています。
| 種類 | 概要 |
| マイナンバー利用事務系 | 社会保障や税など、各個人の情報を取り扱うものです。外部からの接続を遮断し、二要素認証やデータ持ち出し禁止などで厳しいセキュリティ対策が行われています。 |
| LGWAN接続系 | 政府と各自治体を接続する、高度な情報セキュリティと通信の安定性を兼ね備えたものです。財務会計や人事給与、庶務事務など自治体に関連する事務で利用されています。 |
| インターネット接続系 | インターネットを利用した情報収集やメール閲覧などの業務を行うものです。都道府県と市区町村が協力し、自治体情報セキュリティクラウドを構築することで、高度な情報の保全対策を行っています。 |
業務端末がインターネットに接続されていないαモデルは、クラウドサービスが利用しづらいという課題がありました。職員の業務効率や利便性の低下といった問題の解決に向け「βモデル」や「β’モデル」と呼ばれる改善モデルも存在します。ただし、βやβ’はネットワークに接続されているパソコンやスマートフォン、タブレットなど末端機器(エンドポイント)のセキュリティが課題です。現在総務省では、LGWAN接続系から特定のクラウドサービスのみ直接接続できる「α’モデル」の検討も進められています。
LGWANの情報セキュリティー対策
LGWANには、以下5つの情報セキュリティー対策が施されています。
| 種類 | 概要 |
| ファイアウォールによる防御 | サーバーへの不正アクセスを防ぐものです。通信情報から接続の許可もしくは拒否を判断し、必要に応じて外部からのアクセスを遮断します。 |
| 通信経路の暗号化による盗聴防止 | 盗聴を防ぐために、通信経路を暗号化するものです。 |
| 侵入検知機能(IDS) | 全ての通信を侵入検知機能で監視するものです。不正アクセスの兆候を察知した場合、担当者へ通知します。 |
| SOCの設置 | Security Operation Centerの略称で、セキュリティ状況を専門家が24時間365日監視するものです。 |
| 公開鍵暗号方式(PKI)による組織認証の実施 | なりすましや盗聴、改ざんを防止するための暗号方式です。公開鍵と秘密鍵による公開鍵暗号方式を使用し、組織認証を実施します。LGWAN専用に整備された暗号方式「LGPKI(地方公共団体組織認証基盤)」が活用されています。 |
さまざまな情報を取り扱うLGWANでは、上記の複数のセキュリティ対策を組み合わせて実施しています。
LGWAN-ASPとは(民間事業者が提供するサービスの仕組み)
LGWAN-ASPとは、民間事業者がLGWANという非常にセキュアなネットワークを介して、利用者である地方公共団体の職員に各種行政事務サービスを提供する仕組みのことです(地方公共団体情報システム機構(J-LIS)公式情報より)。LGWANそのものは自治体間をつなぐネットワーク基盤ですが、その上でどのような業務システムが使えるかを決めているのがLGWAN-ASPという制度です。
LGWAN-ASPは、以下5種類のサービスによって構成されています。
| サービスの種類 | 概要 |
| ネットワーク層及び基盤アプリケーションサービス | IPアドレスやドメイン名の管理、基本プロトコル群(HTTP等)、認証基盤・ディレクトリ基盤といったアプリケーション基盤を提供します。提供サービスの性質上、総合行政ネットワーク運営主体が担っています。 |
| アプリケーション及びコンテンツサービス | 自治体向けの各種業務アプリケーションや情報コンテンツを提供します。 |
| ファシリティサービス | ホスティングサービスを構成する機器の設置スペースや、電源・空調などの設備を提供します。 |
| ホスティングサービス | アプリケーションが稼働するサーバー機器を提供するとともに、運用管理を行います。 |
| 通信サービス | ホスティングサービスの構成機器をLGWANに接続するための専用回線を提供します。 |
この5分類は、J-LIS「LGWAN-ASPの種類」で公式に説明されています。
LGWAN-ASPとして実際に提供されているサービスの例には、マイナンバーカードを使った証明書のコンビニ交付関連システム、電子申請や届出のシステム、文書や行政情報を管理・共有するシステム、庁内のグループウェア、防災に関する情報システムなどが挙げられます。個別のサービス提供者は、J-LIS「LGWAN-ASPサービスリスト」で確認できます。
制度としての説明であれば、J-LISの公式ページや複数の専門メディアがすでに詳しく解説しています。実務でより重要なのは、LGWAN環境でサービスを使う職員側の実態です。LGWAN接続系の端末とインターネット接続系の端末が分かれている自治体では、職員が業務内容に応じて端末やシステムを使い分ける必要があり、操作に不慣れな職員ほど「どの画面で何をすればよいか」がわかりにくくなりがちです。
LGWANを利用する3つのメリット
LGWANを利用する3つのメリットは以下の通りです。ここからは、上記それぞれのメリットについて詳しく解説します。
1. 行政事務を効率化できる
LGWANを活用すれば、行政事務の効率化が可能です。各地方自治体同士や行政機関が相互に接続でき、情報の交換や共有が円滑になります。掲示板やメール機能も実装されており、政府から発信される情報をスムーズに入手し、事務作業の迅速化・効率化を実現します。
2. 重複投資を防ぐ
柔軟性や汎用性が高い情報通信基盤で、重複投資の防止にもつながります。地方自治体が独自にネットワーク投資を行う必要がなく、運用・維持費の削減にも寄与します。以前は各自治体でシステム構築や回線契約、端末の導入を行っており、保守・運用も必要でした。LGWANの導入で、回線の新設が不要な分コストの削減を実現しました。また、自治体や政府ごとに個別の接続が不要で、業務効率化につながりコア業務に注力できます。
3. 住民サービスを向上させる
住民サービスの向上も利用するメリットの一つです。政府と共通のネットワーク接続が行えるLGWANでは、住民が生活に必要な、以下などの行政情報の入手や申請・届出手続きが可能です。
| 可能な行政情報の入手や申請・届出手続き |
| ◾|マイナンバーカードによる各種証明書のコンビニ交付 ◾|弾道ミサイル情報や緊急地震速報などを配信する全国瞬時警報システムの利用(Jアラート) |
国と地方自治体の行政サービスが一本化され、利便性やサービスの質が向上します。また、高いセキュリティ対策が施されているため、盗聴などの個人情報が漏洩するリスクも高くありません。災害時にも対応できる環境を整備しており、緊急事態が発生しても業務の継続が可能です。
LGWANのデメリット
LGWANには高いセキュリティ性という大きな利点がある一方で、導入・運用の現場では気をつけたいデメリットもあります。代表的なものは以下の3つです。
インターネットとの分離による手間の増加
LGWANは行政専用の閉域ネットワークであるため、インターネットに接続された一般の端末からはアクセスできません。庁内のLGWAN接続系端末とインターネット接続系端末が分かれている自治体では、業務内容に応じて職員が端末やシステムを使い分ける必要があり、慣れないうちは操作の切り替えそのものに手間がかかります。三層分離モデルを採用している場合は、この使い分けがさらに細かくなる点にも注意が必要です。
外部とのファイル送受信の煩雑さと遅延
インターネットから分離されている分、外部の取引先や住民とのファイルのやり取りには一手間かかります。データを一度インターネット接続系の端末経由で受け渡す運用になっている自治体も多く、ファイルの受け渡しに時間がかかったり、確認や承認の手続きが増えたりすることで、業務のスピード感が損なわれる場合があります。
連携に専門知識が必要になること
LGWAN-ASPを新たに導入したり、既存システムと連携させたりする際には、三層分離モデルの構成やLGWAN-ASPの接続要件を理解した上での選定・設定が求められます。情報システム部門の担当者が少ない自治体では、専門知識を持つ人材の確保や、ベンダーとの調整に負担がかかりやすい点もデメリットの一つです。
こうした手間は、申請やファイル連携の手順を標準化したり、職員向けの操作ガイドを整備したりすることである程度軽減できます。実際に、LGWAN環境下でシステムを刷新した自治体でも、職員がスムーズに新しい業務フローへ移行できるよう、デジタルガイドを活用して定着を後押しする事例が出てきています。
LGWANの活用事例(静岡県磐田市の財務会計DX)
静岡県磐田市では、旧財務会計システムの保守期間終了を契機に、新財務会計システム「FAST財務会計」を導入しました。約10年間運用してきた旧システムからの移行には一定の負荷が想定され、出納整理期間には例年6,000件を超える伝票審査を、会計課のわずか4名体制で処理する必要がありました。操作に不慣れな職員による起票ミスや、問い合わせ・返戻の増加も懸念されていました。
そこで磐田市が採用したのが、LGWAN接続で利用できるデジタルガイドサービスである「テックタッチ」です。よく使う業務画面へ1クリックで遷移できるポータルと自動ガイドを設置し、間違えやすい項目には吹き出しで補足説明を表示、返戻状況や職員アンケートをもとに継続的にガイド内容を改善する運用を構築しました。通常2カ月程度かかる構築作業を、約2週間で完了させています。
その結果、問い合わせ件数を約33%、返戻件数を約30%削減し、全庁的に年間約8,895時間の業務時間削減効果があったと試算されています。職員アンケートでは95.7%が「来年度以降も必要」と回答しており、システムの定着と満足度向上を実現しました。
より詳しい取り組み内容は、磐田市の事例ページでも紹介しています。
テックタッチはLGWANに対応のデジタルアダプションプラットフォーム(DAP)
Webシステムの画面上に独自のガイド・ナビゲーションを表示するSaaS「テックタッチ」は、LGWANに対応した「テックタッチ for LGWAN」をリリースしました。システム改修不要で画面上に操作説明を表示するデジタルガイドにより、難しい手続きもストレスなく操作できます。公共団体の内部事務システムでは、農林水産省の庶務事務システムや横浜市のタレントマネジメントシステムでも先行的に利用されており、以下を実現しています。
| 「テックタッチ for LGWAN」で実現したこと |
| ◾|職員のシステム利用にまつわる時間やストレスの削減 ◾|問合せや差戻しの削減 ◾|入力データの精度向上 |
「テックタッチ for LGWAN」のリリースにより、これまで以上に多くの地方公共団体のDX推進に貢献しています。磐田市の財務会計DXは、その具体的な成果の一例です。
まとめ
この記事では、LGWANの概要や仕組み、LGWAN-ASPの仕組み、利用するメリットとデメリット、そして活用事例について解説しました。三層分離モデルに基づく環境での接続により強固なセキュリティ対策が施されており、自治体の手間やコストの削減を実現しています。一方で、インターネットとの分離ゆえの手間や、外部とのやり取りの煩雑さ、連携に必要な専門知識の確保といった課題もあり、利用する職員が使いこなせなければ期待する効果を得られません。テックタッチでは、操作方法がわからず迷ったり、諦めたりすることがないように画面上にデジタルガイドなどのヒントを表示する「テックタッチ for LGWAN」をリリースしました。LGWANにも対応することで、静岡県磐田市の事例のように、より一層のDX促進に貢献します。社内システムや自社プロダクト向けのソリューションもあるため、ご興味がある方はお問合せください。
また、本記事の解説に加え、他の自治体が取り組んでいる先進的な成功事例や、具体的な推進計画について詳しく知りたい方は、「自治体DXの事例10選!先進事例から推進計画まで解説」の完全ガイドをご覧ください。
自治体DXにおける課題解決のヒントや推進目的を改めて確認したい場合は、「自治体DXとは?5つの課題から推進ポイント・先進事例まで解説」や「自治体DXとは?推進目的から課題、事例をわかりやすく解説」の記事も役立ちます。



